小径は坂か

本多の杜の「歴史の小径」が復元されて1年経つ。藩老本多家の上屋敷と、崖下の中屋敷を結んだつづら折り。殿様も通ったであろう「御用」の坂である。その踏み跡は生かされたか。「小径」というより「坂」ではないのか。
『加越能の地名』No51「地名人」(加越能地名の会2018.4.1発行)寄稿
小径とは、例えば京都・嵯峨野の竹林を抜ける平坦な道を言うのではないか。
石川県立美術館の周りにある「美術の小径」。そこから下りる急な石段を何と書こうか…。『サカロジー』の著者国本昭二さんも悩んだようだ。結果、「美術の小径に続く坂」に落ち着いた。小径は崖の上の遊歩道であり、斜度三四度の石段は国本さんにとって「坂」でしかなかった。一九九五年(平成七)のことである。
翻って、いまや美術の小径として語られるのはほとんどこの坂である。脇を辰巳用水の分流が流れ落ち、インスタ映えがする。少し離れて「歴史の小径」が昨春、つくられた。金沢市指定史跡「本多家上屋敷西面門跡及び塀跡・附道跡」に残る坂跡を復元した。下の「緑の小径」を含め、周辺施設の回遊性を意図するものの、坂だけからなる歴史の小径を小径と言っていいものかどうか。
歌の文句に
〽小径に白い仄(ほの)かな~からたちの花
(『からたち日記』作詞:西沢爽)
〽いつもの小道で目と目があった
(『いつもの小道で』作詞:永六輔)
とある。どちらのシーンにも坂道は想像しにくい。