金沢の坂道コラム

「坂」と歌謡曲 ― 当世スロープソング事情PartⅥ

「坂」と歌謡曲 ― 当世スロープソング事情PartⅥ

前回PartⅤ(3月12日付)でこう書いた。「坂歌にジャンルはない。坂歌は人類普遍の営みだ」。5回も連載、ここらで傾向ぐらいは提示したい。そんな気持ちがあった。これを見た坂学会の井手のり子さん(理事)からコメントが寄せられた。「私も気になっていました。歌に人生を重ね合わせるというのは日本人の情感に添うのでしょう。ちなみに外国では山に例えることが多いとか」。『金沢の坂道』の副題は「坂に人あり歴史あり」である。「坂」を「坂歌」に置き換えると「坂歌は人生を映す」となる。むつかしく考えることはなかった。

坂歌はソウルミュージック

坂はツールともなる。「静」の坂に対し「動」の人生が反応する。喜怒哀楽いろいろあったけど自分だけではない。周りもそうだ。わが人生、格別悪くもなかったのかもしれない。坂を上って反省し、坂を下って納得する。慰め励ましのツールである。坂歌は日本人のソウルミュージックと言っていいのかもしれない。美空ひばりや石原裕次郎は歌っていないようだけど、それはたまたまであって、歌詞が回ってくれば歌ったに違いない、と思う。

坂名が発生したのは17世紀半ばの江戸時代、用語として「歌謡曲」が使われるのは昭和に入ってからである。人と坂は近現代をともに生きてきた。時代は記憶となって人びとに共有される。さまざまなとらえ方があり思考に幅が出る。香港の民主活動家周庭(アグネス・チョウ)さんが好きだという欅坂46の「不協和音」(作詞‎:秋元康、作曲:バグベア、‎2017)を聴いてみた。抗い、戦い続ける言葉が連ねられている。アイドルグループがこれを歌って踊る。今という時代の一端である。

過去5回、1回を10曲として計50曲、これに番外の香西かおり「無言坂」※を加えて合計51曲をピックアップした。1回1回、その時に収拾した10曲から坂歌の意味を探ってきた。小見出しでくくりジャンルを探しもした。これを改め、今回は時の流れのままに掲載する。

※『「無言坂」は語る―久世光彦の世界』2016.8.31付。『「坂」と歌謡曲』初回は1回きりのつもりだったので、それ以前に掲載した「無言坂」を番外に付記した。

 

【昭和】1926.12.25~1989.1.7

渡辺はま子「雨のオランダ坂」(作詞:菊田一夫 作曲:古関裕而 1947)

水島道太郎主演『地獄の顔』(松竹)の挿入歌の一つ。ディック・ミネの『夜霧のブルース』もその一つ。オランダ坂は長崎の坂。

〽こぬか雨ふる 港の町の
蒼(あお)いガス燈の オランダ坂で
泣いて別れた マドロスさんは
縞のジャケツに オイルのコート
煙(けむ)にむせてか 泣いていた
泣いていた

 

小畑実「長崎のザボン売り」(作詞:石本美由起 作曲:江口夜詩 1948)

この歌も長崎。小畑実の澄んだ歌声が戦後を明るくした。ザボンはブンタンとも呼ぶ。

〽鐘が鳴る鳴る マリヤの鐘が
坂の長崎 ザボン売り
銀の指輪は どなたの形見
髪に結んだ リボンも可愛い
可愛い娘
ああ 長崎のザボン売り

 

吉田拓郎「イメージの詩」(作詞・作曲:吉田拓郎 1970)

「よしだたくろう」のデビューシングル。人生の指針あり、叫び、恋愛、他者への愛…。原曲は42番まである。

〽これこそはと 信じれるものが
この世にあるだろうか
信じるものがあったとしても
信じないそぶり
悲しい涙を流している人は
きれいなものでしょうネ
涙をこらえて 笑っている人は
きれいなものでしょうネ
(略)
長い長い坂を登って 後ろを見てごらん
誰もいないだろう
長い長い坂をおりて 後ろをみてごらん
皆が上で手をふるサ
きどったしぐさがしたかったアンタ
鏡を見てごらん
きどったアンタが映ってるじゃないか
アンタは立派な人サ

 

ふきのとう「雨ふり道玄坂」(作詞・作曲:山木康世 1976)

フォーク/ニューミュージック・デュオ。失恋女性の心境を歌う。雨だれの音が聞こえる。

〽雨ふりの道玄坂 バスを待つあなたの
淋しさに声かけたのは 気まぐれじゃなかったわ

ガラス窓から後ろ姿が 雨に煙りかすんで消える
ただあなたに嫌われないように いつか
長い髪も切ったのに

電話ボックスで夜が明けるまで
一人で寒さしのいだ冬の日
ただあなたの笑顔が見たくて 一人
馬鹿げた事もしてきた

 

THE ALFEE「坂道」(作詞:坂崎幸之助 作曲:高見沢俊彦 1980)

卒業。友情。ノスタルジー。あとはあなたの胸に聞いてください。

〽長い坂道を見ると
学生達が急いでる
いつかあいつと降りた駅の方から
遥かな街が広がる

あの日この道で別れた
振り向かない約束をして
小さくなった あいつの後姿に
一度だけ手を振った
(略)
これから あと どれくらい
坂を登れば 良いのか
きっとその度に俺は 振り向くだろう
一度だけ手を振るために

さよなら想い出 別れを告げたのに
まだウロウロしているのか
しばらく君には 会わないでいたい
早く 何処か 消えていってくれ

 

【平成】1989.1.8~2019.4.30

Do As Infinity「陽のあたる坂道」(作詞:D・A・I 作曲:D・A・I 2002)

テレビドラマ『初体験』の主題歌。スタッフの結婚式のためつくられた。

〽季節はずれの 風が運ぶ
思い出たち
なつかしい笑顔の友(きみ)は遠い故郷(まち)
(略)
誰もがいつか 越える坂道
その先には
まるであの日の 素顔のままの僕等がいる
遠まわりでも 必ず たどりつける
きっと きっと いつか

 

手嶌葵「さよならの夏 ~コクリコ坂から~」(作詞:万里村ゆき子 作曲:坂田晃一 2011)

1976年放送のテレビドラマ「さよならの夏」の主題歌。森山良子が歌った。スタジオジブリ映画「コクリコ坂から」で手嶌葵がカバーした。

〽光る海に かすむ船は
さよならの汽笛 のこします
ゆるい坂を おりてゆけば
夏色の風に あえるかしら
わたしの愛 それはメロディー
たかく ひくく 歌うの
わたしの愛 それはカモメ
たかく ひくく 飛ぶの
夕陽のなか 呼んでみたら
やさしいあなたに 逢えるかしら

 

三浦あずさ「隣に…」(作詞:貝田由里子 作曲:椎名豪 2013)

隣とは「並んで続いているもののうち、最も近くにあること。また、そのもの」をいう。

〽空にだかれ 雲が流れてく
風を揺らして 木々が語る
目覚める度 変わらない日々に
君の抜け殻探している
(略)
この坂道をのぼる度に
あなたがすぐそばにいるように感じてしまう
私の隣にいて 触れて欲しい

近付いてく冬の足音に
時の速さを感じている
待ち続けたあの場所に君は
二度と来ないと知っていても

 

STU48「夢力(ゆめぢから)」(作詞:秋元康 作曲:鶴﨑輝一 2019)

瀬戸内のアイドルグループが歌う全力応援ソング。

〽夢力出そうぜ!
全力で行こうぜ!!

人生なんて どこまでも坂道ばかりで
真面目に生きるのが嫌になって来る
走り出したあの頃は平坦な道だったから
疲れなんて感じずに先を急いでたよ

大人になれば 無理しないで歩きながら
まわりに合わせるように
休む理由 どこかで探してるんだ

夢力出そうぜ!
汗かいて踏ん張れ!
全力で行こうぜ!
無我夢中なんて今だけだ
いつだって
青春は短い!

 

【令和】2019.5.1~

SAKANAMON「丘シカ地下イカ坂」(作詞・作曲:藤森元生 2020)

坂は上り下りに関係なく、目的や気持ち次第で楽しくもつらくもなる。独特の言葉選びと独自の世界観。〽さよならは寂し坂 会えるのは楽し坂~。

〽上れ上れ上れ上れ上れ上れ上れ上れ
上り坂上れ
下れ下れ下れ下れ下れ下れ下れ下れ
下り坂下れ

シカ 坂
シカ 坂 つかつか 上ったら 丘の家に
イカ 坂
イカ 坂 せかせか 下ったら 地下の家に

僕らの家は丘と地下
遊び場は坂の真ん中
ランドセル置いてイカなきゃ
つかつか せかせか

急げ急げ急げ急げ急げ急げ
止まれ
信号はシっカり止まれ
急げ急げ急げソゲソゲソゲ
ただいま おかえり 行ってきます
遊び場向かえ

 


あわせて読みたい

「坂」と歌謡曲 ― 当世スロープソング事情PartⅤ

「坂」と歌謡曲 ― 当世スロープソング事情PartⅤ

坂歌も5回目となった。この5年でつごう50曲をピックアップしたことになる。「傾向と対策」? わからないんだなぁ、それが…。

コラムを読む

<出張編> 「学校坂道」うみなり坂

<出張編> 「学校坂道」うみなり坂

「うみなり坂」という響きのいい名前を目にしたのは一年前のことだった。訪ねてみたい、と思ったのはそこが先年亡くなった友人の出身地で、一緒にハチメ釣りを楽しんだ能登だったからだ。

コラムを読む

「坂」と歌謡曲 ― 当世スロープソング事情PartⅣ

「坂」と歌謡曲 ― 当世スロープソング事情PartⅣ

「2番の歌詞のほうが好き」という人は結構いる。スナックの片隅。歌は1番が本命と思っていた者には「物好きな」としか見えなかった。「付け足しの歌がなんでそんなにいいのかよぉ」。酔っていた。

コラムを読む

「坂」と歌謡曲 ― 当世スロープソング事情PartⅢ

「坂」と歌謡曲 ― 当世スロープソング事情PartⅢ

グレープ『無縁坂』(さだまさし・1975)をきっかけに貯めてきた「坂歌」も第3弾を編むに至った。読者に迷惑なのではないか、と思いつつ書いてきた。この場を借りてお詫びしたい。

コラムを読む

「坂」と歌謡曲 ― 当世スロープソング事情 PartⅡ

「坂」と歌謡曲 ― 当世スロープソング事情 PartⅡ

自分の知っている歌に限った10曲というのが前回(2016.9.30up)なら、今回は「坂」が歌われていればなんでもよしとした。広がりを見せつつも、独自性は保った? と思う「坂歌」シリーズ第2弾。

コラムを読む

「坂」と歌謡曲 ― 当世スロープソング事情

「坂」と歌謡曲 ― 当世スロープソング事情

演歌「無言坂」は架空の坂でありながら、聴く人それぞれに “ひとつの坂”をイメージさせた。現実と架空をないまぜにするのが歌であるなら、坂はもともと歌に向いていたのかもしれない。その辺から迫ってみる。

コラムを読む

<出張編> 「無言坂」は語る ― 久世光彦の世界

<出張編> 「無言坂」は語る ― 久世光彦の世界

坂をうたった歌は多い。恋に郷愁、決断・決意…。ところで、1993年の日本レコード大賞受賞曲、香西かおりの「無言坂」はどこにあるのだろう? 意外に近いところに答えはあった。今回は初めての出張編。

コラムを読む